「地域の名産品がもらえてお得」といった理由から注目を集めるふるさと納税。単なる「お取り寄せ」にとどまらないメリットの多さから、2023年度の寄付額は1兆円を超え、約1,000万人が利用する制度となっています。
とはいえ、興味はあっても仕組みや手続きの方法がよくわからないために、なかなか利用できずにいる人も多いでしょう。
そこで本記事では、ふるさと納税の基本的な仕組みやメリットを整理するとともに、メリットを享受するための手続きの流れまで紹介します。
ふるさと納税の基本的な仕組み
ふるさと納税は「納税」とはいうものの、実際は任意の自治体に寄付をする制度です。一定の限度はありますが、寄付金のうち2,000円を超えた部分は税金が後日戻ってくる点が大きな特徴です。そのうえ自治体からは寄付のお礼として地域の名産品などが贈られるため、多くの人が魅力を感じて利用しています。
一方で寄付を受けた自治体は寄付金を財源として、子育て支援やまちづくりなどの各施策に取り組んでいきます。
地方で生まれ育ったが、就職を機に都会で暮らすようになる方も多いでしょう。住民税などの税金は住まいの地域に納めますから、地方には税収が入りません。ふるさと納税は住んでいる自治体の枠を超えて、思い入れのある街を応援するための制度でもあります。
ふるさと納税のメリット
ふるさと納税は税金の軽減や名産品の受け取りのほかにも、寄付する自治体を自由に選べる、寄付金の使い道を指定できるといったメリットがあります。それぞれみていきましょう。
住んでいる地域や出身地に限らず寄付できる
ふるさと納税は、自分の意思で応援したい自治体を自由に選んで寄付できます。旅行で訪れて好きになった街、友人が住んでいる街、施策に共感できる街など、暮らしたことのない自治体でも問題ありません。
もちろん現在暮らしている自治体や生まれ故郷に寄付しても構いません。ただし、現在お住まいの自治体への寄付はお礼品の対象外となるケースもある点には注意しましょう。
寄付金の使い道を指定できる
自治体の公式サイトやふるさと納税のポータルサイトでは、集まった寄付金の使い道や進捗を具体的に紹介しています。寄付を募る目的は、たとえば子ども支援事業や高齢者・障がい者支援事業のほか、地震や豪雨など災害の復旧・復興支援などさまざまです。
自分の寄付金がどのように役に立つか具体的にイメージできるため、地域貢献の実感や寄付先への親近感など気持ちの面でも得られるものが大きい制度です。
お礼の品がもらえる
寄付のお礼として自治体が寄付者に贈る品物を「返礼品」といいます。寄付金の3割以内の地場産品が基本で、農産物や海産物、お菓子、タオルやグラスといった日用品から、温泉が有名な地域なら温泉旅館の宿泊券といった「体験」も含まれます。
多くの自治体が寄付金額に応じた複数の返礼品を用意しており、バリエーション豊かな品々から好きなものを選べる楽しさもふるさと納税の魅力のひとつです。
所得税と住民税が一部差し引かれる
一定の限度額はありますが、寄付金額のうち2,000円を超えた部分は全額が所得税と住民税から差し引かれます。なお、所得税は寄付をおこなった年の税額から還付され、住民税は寄付をおこなった翌年の税額が軽減されます。
つまり、ふるさと納税は寄付の負担は実質2,000円で済むうえに税金を抑えられ、さらに返礼品も受け取れる、金銭的メリットの大きな制度です。
ただし所得税や住民税を軽減するためには一定の手続きが必要です。期限内に忘れずに行いましょう。手続きの方法や流れについて、くわしくは次章以降で紹介します。
ふるさと納税の手続きの方法
実際にふるさと納税を利用するための準備から税金が差し引かれるまでの流れを整理していきましょう。全部で4つのステップに分かれており、ほとんどがPCやスマートフォンで手続きできます。
1. ふるさと納税で控除できる税額の上限を調べる
ふるさと納税で差し引ける税額の上限は年収や家族構成によって異なります。寄付をする前に、自身の上限額を把握しておきましょう。
参考までに、2,000円を除いた全額を税金から差し引ける寄付額を下表にまとめました。ただし、下表は住宅ローン控除などほかの控除のない給与所得者を想定しています。ほかに控除がある人や自営業者は上限額が異なるため、あくまで参考程度にしてください。
【2,000円を超える部分が全額控除となる寄付額の上限目安】
ふるさと納税を行う本人の給与収入 | ふるさと納税を行う人の家族構成 | ||||
独身または共働き※1 | 夫婦※2 | 共働き+子1人(高校生※3) | 共働き+子1人(大学生※3) | 夫婦+子1人(高校生) | |
300万円 | 28,000円 | 19,000円 | 19,000円 | 15,000円 | 11,000円 |
400万円 | 42,000円 | 33,000円 | 33,000円 | 29,000円 | 25,000円 |
500万円 | 61,000円 | 49,000円 | 49,000円 | 44,000円 | 40,000円 |
600万円 | 77,000円 | 69,000円 | 69,000円 | 66,000円 | 60,000円 |
700万円 | 108,000円 | 86,000円 | 86,000円 | 83,000円 | 78,000円 |
800万円 | 129,000円 | 120,000円 | 120,000円 | 116,000円 | 110,000円 |
900万円 | 152,000円 | 143,000円 | 141,000円 | 138,000円 | 132,000円 |
1,000万円 | 180,000円 | 171,000円 | 166,000円 | 163,000円 | 157,000円 |
1,100万円 | 218,000円 | 202,000円 | 194,000円 | 191,000円 | 185,000円 |
1,200万円 | 247,000円 | 247,000円 | 232,000円 | 229,000円 | 229,000円 |
1,300万円 | 326,000円 | 326,000円 | 261,000円 | 258,000円 | 261,000円 |
1,400万円 | 360,000円 | 360,000円 | 343,000円 | 339,000円 | 343,000円 |
1,500万円 | 395,000円 | 395,000円 | 377,000円 | 373,000円 | 377,000円 |
1,600万円 | 429,000円 | 429,000円 | 412,000円 | 408,000円 | 412,000円 |
1,700万円 | 463,000円 | 463,000円 | 446,000円 | 442,000円 | 446,000円 |
1,800万円 | 498,000円 | 498,000円 | 481,000円 | 477,000円 | 481,000円 |
1,900万円 | 533,000円 | 533,000円 | 516,000円 | 512,000円 | 516,000円 |
2,000万円 | 569,000円 | 569,000円 | 552,000円 | 548,000円 | 552,000円 |
※1:共働き=配偶者の給与収入が201万円超のケースです
※2:夫婦=ふるさと納税を行う人の配偶者に収入がないケースです
※3:高校生=16歳~18歳の扶養親族、大学生=19歳~22歳の特定扶養親族を指します
中学生以下の子どもは控除額に影響がないため、人数に含める必要はありません。
なお、控除の上限額はふるさと納税ポータルサイトや総務省のWebサイトで簡単にシミュレーションできます。とくに自己負担額を2,000円に留めたい人は寄付金額の目安となるため必ず確認しておきましょう。
2. 寄付する自治体を決めて寄付を申し込む
寄付先の選定はポータルサイトを使うと便利です。ポータルサイトには「ふるさとチョイス」や「ふるなび」、「楽天ふるさと納税」などがあります。多くの自治体が複数のポータルサイトに情報を掲載しており、どのサイトでも同じ返礼品なら寄付額も同じです。寄付の額や地域、返礼品、使い道などの条件で検索して絞り込んでいくとよいでしょう。
寄付する自治体と返礼品を選んだら、そのままサイト上で寄付の申込みと支払いまで進められます。支払い方法は銀行振込やコンビニ払いのほか、クレジットカードやPayPayなどのキャッシュレス決済が使える自治体もあります。
3. お礼の品と寄附金受領証明書を受け取る
自治体からの返礼品は数週間〜数ヵ月後に届くケースが一般的です。農産物などは、旬の時期の発送となるケースもあります。
また、基本的には返礼品と一緒に「寄附金受領証明書」や「ふるさと納税ワンストップ特例制度に関する書類(寄附金税額控除に係る申告特例申請書)」などの書類も届きます。後ほど税金控除の手続きに使用するため、必ず保管しておきましょう。
4. 寄附金控除の手続きをする
ふるさと納税で税金控除を受けるための手続きには「ワンストップ特例制度」と「確定申告」の2種類があります。もともと確定申告しか方法がありませんでしたが、一定の条件を満たす人に限り、確定申告を不要とするワンストップ特例制度が設けられました。いずれの方法で手続きをしても控除される税額は同じです。
具体的な手続きの流れについては次の章で紹介します。
寄附金控除の方法
ワンストップ特例制度と確定申告では、対象者や手続きのタイミング、必要な書類が異なります。ここでは各手続きの内容を整理していきましょう。
ワンストップ特例制度
利用するには条件がありますが、確定申告よりも簡単な手続きでふるさと納税の寄附金控除を受けられる仕組みがワンストップ特例制度です。対象者や手続きの流れを説明します。
対象者・必要書類
ワンストップ特例制度を利用するための条件は2つあります。
- 寄付した自治体が5ヵ所以下(同じ自治体なら複数回寄付しても「1ヵ所」です)
- ふるさと納税以外に確定申告する必要がない人
- 年収2,000万円を超える給与所得者や自営業者、住宅ローン控除や医療費控除を受ける人などは確定申告が必要です
また、必要な書類はワンストップ特例申請書(寄附金税額控除に係る申告特例申請書)とマイナンバーカードの2種類です。ワンストップ特例の申請書はポータルサイトからダウンロードもできますが、寄付時に取り寄せを申し込んでおくとスムーズです。
マイナンバーカードを持っていない人は、マイナンバーが確認できるもの(通知カードや住民票)と身元を確認できるもの(運転免許証やパスポートなど)を揃えましょう。
手続きの流れ
ワンストップ特例制度を利用する場合は下記2ステップで手続きが完了します。
- 寄付時に「ワンストップ特例制度を利用する」を選択し、申請書の取り寄せを申し込む
- 申請書が届いたら必要事項を記入して提出する(寄付の翌年1月10日必着)
申請書は寄付ごとに必要ですので、複数の自治体に寄付をする人は注意しましょう。
郵送での申請書提出が一般的ですが、公的個人認証アプリ「IAM」に対応した自治体ならオンラインでも申請できます。どちらも締切は1月10日で、期限を過ぎてしまった場合は確定申告で手続きをすることになります。
なおワンストップ特例を利用した場合、所得税からの控除はありません。しかし、その分も含めて翌年度の住民税から控除されますので安心してください。
確定申告
次に、ワンストップ特例制度が利用できない人や、ワンストップ特例で申請期限に間に合わなかった人が行う確定申告の手続きをみていきましょう。
対象者・必要書類
先にも少し触れましたが、下記に該当する人はふるさと納税の税金控除において確定申告が必要です。
- 自営業者などもともと確定申告が必要な人
- 給与所得者で年収2,000万円を超えている人
- 医療費控除を受ける人
- 住宅ローン控除を受ける人
- 不動産所得がある人
- ふるさと納税で年間6自治体以上に寄付した人
- ワンストップ特例の申請期限に間に合わなかった人 など
また、用意する書類もワンストップ特例を利用する場合とは異なります。
- 源泉徴収票(会社員の場合)
- 寄付した自治体から届いた「寄附金受領証明書」
- 銀行口座の通帳またはキャッシュカード(還付金の受け取りに必要)
- マイナンバーカード
マイナンバーカードがない場合は、マイナンバーがわかるもの(通知カードや住民票など)と身元確認書類(運転免許証やパスポートなど)をそれぞれ用意しましょう。
手続きの流れ
必要な書類を揃えたら、確定申告書を作成していきましょう。作成方法は3パターンあります。
- 国税庁のWebサイトから申告書をダウンロードし、印刷して手書きで作成する
- 国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で必要事項を入力する
- 会計ソフトを使って作成する
自営業者は日常的に会計ソフトを使っているかもしれませんが、会社員には馴染みが薄いでしょう。会社員の場合は確定申告書等作成コーナーでの作成がおすすめです。税額等を自動で計算してくれるほか、書類の提出もオンラインで行えるためです。
書類を作成したら、下記いずれかの方法で申告期限までに提出します。
- 税務署に直接提出する(持参または郵送)
- オンラインで提出する(e-Tax)
確定申告書作成コーナーまたは会計ソフトを使ってデータ形式で申告書を作成した人は、マイナンバーカードがあればオンラインで自宅にいながら確定申告を完了できます。
なお確定申告書の提出期間は毎年2月16日〜3月15日です。1ヵ月ありますが、慣れない人は申告書の作成に時間がかかる可能性があるため余裕を持って手続きしましょう。
確定申告をおこなった場合、ふるさと納税で寄付をした翌年に所得税の節税分が一括還付されるとともに、住民税は減額の形で控除されます。
まとめ
ふるさと納税は地域の支援と節税を同時に実現できる仕組みです。生まれ故郷に限らず応援したい自治体を自由に選べるうえ、返礼品として地域の名産品も楽しめます。寄付金の使い道指定によって地域貢献の実感も得られるでしょう。
ワンストップ特例制度なら税金控除のための確定申告が不要なほか、各種手続きもオンラインで完結するものが増えており、忙しい方でも手軽に利用できます。
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