「債券投資を始めたいが、日本の金利は低すぎて魅力を感じない」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。実際、日本の10年国債利回りは最近になってようやく1.5%台となっているものの、資産形成には心もとない状況です。一方で、海外に目を向けると利回り4%を超える債券も存在します。このような内外金利差を背景に、外国債券への投資に注目が集まっています。
外国債券への関心が高まる理由
トランプ米大統領の一挙一動やロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルをはじめとする中近東の情勢等が、世界経済にどのような影響を及ぼし私たちの投資環境にどう影響するのか関心が高まるなか、日本の投資家にとって外国債券は相対的に有利な選択肢として存在感を増しています。本章では、2025年の外国債券市場の動向と、外国債券が注目される背景を解説します。
2025年の外国債券市場動向
2025年の外国債券市場は、大きな転換点を迎えています。多くの中央銀行はインフレの沈静化を背景に、利下げ局面に入りつつあります。今後2~3年にわたり、多くの地域で利回りが低下し、債券価格が上昇する可能性が高まっています。これは、外国債券投資にとって追い風となる環境です。一方で、米国では異なる動きも見られます。トランプ政権の大型減税や通商政策は名目成長率とインフレ率を押し上げる可能性があり、FRBが想定するよりも利下げ余地が限定的になるシナリオも考えられます。ただし、大統領自身はFRBに対し強い利下げ要求を続けており、経済環境と政治的圧力が交錯する中で、投資家は慎重な市場観察が求められます。
どんな人におすすめ?
外国債券投資は、特に以下のような方におすすめです。まず、債券運用でより高い利回りを求める方です。実際に、外国債券の中には7~8%の高利回り商品も数多く存在しています。
また、国際分散投資を図りたい方にも適しています。日本円だけでなく、米ドルやユーロ、豪ドルなど複数の通貨に資産を分散することで、為替変動や国内の政治・経済リスクを軽減できます。特に、20代後半から30代で将来の資産形成を真剣に考え始めた方にとって、外国債券は魅力的な選択肢の1つとなるでしょう。
外国債券の基礎知識

外国債券とは具体的にどのような金融商品なのでしょうか。投資を始める前に、まずは基本的な仕組みや分類について理解を深めていきましょう。
外国債券とは?発行体・通貨・市場による3つの分類
外国債券とは、発行体、発行通貨、発行市場のいずれかが外国である債券のことです。この3つの要素によって、外国債券は様々な種類に分類されます。まず、発行体による分類では、債券を発行する主体が誰であるかによって分けられます。外国政府が発行する国債、企業が発行する社債、世界銀行やアジア開発銀行といった国際機関が発行する国際機関債、などがあります。
次に、発行通貨による分類では、米ドルやユーロ、豪ドルなどの外貨建て債券と、外国の発行体が日本円で債券を発行する円建て外債があります。この発行通貨の違いは、実際に投資家が受け取る利息や償還元本が、どの通貨で支払われるのかにも関わってきます。外貨建て債券を購入した場合、利息や元本の支払いも基本的にはその外貨(たとえば米ドルやユーロ)で行われます。つまり、投資家が外貨口座を保有していない場合には、証券会社などを通じて円に替える必要があります。一方、円建て外債であれば、利息・償還金ともに日本円で支払われることになります。
そして、発行市場による分類では、債券がどこの国の市場で、どのような規制のもとで発行されたかが判断基準となります。たとえば、外国の発行体が日本市場で円建て債券を発行するようなケースは「サムライ債」と呼ばれ、日本の規制のもとで取引される「外国債」に該当します。一方、発行通貨の母国以外の市場(オフショア市場)で発行される債券は「ユーロ債」と呼ばれ、特定の国の規制を受けないことから、企業等の発行体にとっては発行通貨や発行場所に柔軟性があり比較的低コストであること、投資家にとっては利益から支払う税金が少なくてすむ可能性があり多様な選択肢が提供されること、といったメリットがあります。
米国債30年物
外国債券を代表する存在として、米国債30年物が挙げられます。米国債30年物は、米国財務省が発行する償還期間30年の長期利付国債(年2回の利払い、満期時に額面金額を償還)で、その利回り動向は米国長期金利の指標として世界中の投資家・市場関係者から注目されています。
歴史的に見ると、米国債30年物の利回りは、1980年代初頭には15%を超える高利回りを記録した一方、2020年のコロナ禍では1%台前半まで低下しました。現在は約4.9%(2025年7月末時点)となっています。今後も、米国の経済情勢や景気動向、財政状況、金融政策に応じて大きく変動していく可能性があり、目が離せません。
その他先進国債券vs新興国債券:リスクと利回り
外国債券を選ぶ際には、先進国債券と新興国債券の特徴を理解することが大切です。両者は、信用リスクや通貨の安定性、そして利回りの水準において、大きく異なる性質を持っています。
米国債以外の先進国債券には、ユーロ建てドイツ国債や豪ドル建てオーストラリア国債などが代表例として挙げられます。こうした債券は、政治的・経済的に安定した国が発行するため、市場でも高い信頼を集めています。利回りは日本国債より高めですが、あくまで控えめな水準で、例えばユーロ建て債券で年2〜3%前後、豪ドル建て債券で3〜4%程度の水準で推移しています。
一方で、新興国債券には南アフリカランドやトルコリラ建てなど、年7〜10%と高利回りの債券もあります。リターンを重視する投資家にとっては魅力的な選択肢ですが、カントリーリスク、発行体の信用リスクや為替変動リスクなど、高いリスクを伴う点には十分な注意が必要です。
最近では、ブラジルレアル建て債券やインドルピー建て債券など、いわゆる「円貨決済型」の商品も登場しています。これは、現地の通貨規制で為替取引が制限されている国の債券について利金や償還金の受け取りを円で行える仕組みを付加したものです。こちらもカントリーリスク、発行体の信用リスク、為替変動リスク、流動性リスクなど、非常に高いリスクを伴う点には十分に理解しておく必要があります。
外国債券投資の2つのメリット

外国債券投資には、国内債券にはない魅力的なメリットが2つあります。これらのメリットを理解することで、外国債券がなぜ資産形成において有効な選択肢となるのかが見えてきます。
高い利回りの享受
外国債券投資の最大の魅力は、日本よりも高い金利環境を活用できることです。現在の市場環境では、7〜8%といった高利回りの商品も見受けられます。とくに新興国通貨建ての債券では、8%や9%といった高金利が設定されているケースもあります。
さらに、外貨建てでの価値を見れば、、長期投資を行うことで、この利回り差の効果はより大きくなります。運用期間が長くなるほど金利差による運用成果の違いが広がり、複利の力も加わることで資産形成に大きな影響をもたらします。
分散投資効果
外国債券への投資は、資産全体の分散効果を高める手段としても優れています。円以外の通貨を持つことで、為替の変動や金利の違いを活用しつつ、ポートフォリオ全体のリスクを抑えることができます。
また、通貨だけでなく地域の分散も重要なポイントです。外国債券を通じて日本以外の国や地域に投資することで、国内の政治的・経済的な変動に対するリスクヘッジが可能になります。特に、日本経済の成長鈍化や人口減少、財政問題などが長期的な懸念材料として意識されている今、海外資産への分散はより注目されています。
このように、複数の国や通貨、経済圏に資産を分けて投資することで、市場の一時的な変動に対してポートフォリオ全体の安定性を高めることができるのです。
為替差益の可能性
外国債券投資では、為替レートの変動にもよりますが、購入時よりも円安が進んだ場合には、利息や償還金を外貨で受け取り円に転換する際に為替差益を得ることができます。
外国債券投資の4つのデメリットとリスク対策

外国債券投資にはメリットがある一方で、必ずリスクも少なからず存在します。これらを理解し適切な対策を講じることが重要です。
カントリーリスク
外国債券投資において最も注意すべきリスクの一つが、投資対象国の政治的・経済的変動による影響です。代表的な事例として、ギリシャやアルゼンチンの債務不履行があります。ギリシャは2010年代の欧州債務危機において財政破綻の危機に陥り、アルゼンチンは過去に複数回のデフォルトを経験しています。特に新興国投資においては、カントリーリスクが高くなる傾向があります。政治的な不安定さや経済政策の急激な変更により、投資環境が大きく変化する可能性があるためです。
信用リスクと格付けの重要性
発行体の財務状況が悪化した場合、利息や元本の支払いが行えなくなる可能性があり、これを「信用リスク」と呼びます。債券の信用力を見極めるうえで重要な指標が「格付け」です。格付けは、ムーディーズやS&P、フィッチといった格付け会社が発行体の財務健全性を評価し、AAA(最上位)からD(デフォルト)までランク付けするものです。
一般的に、格付けが高い債券は信用リスクが低く、そのぶん利回りも低めに設定されます。一方、格付けの低い債券はリスクが高いため、投資家への補償として高い利回りが提供される傾向にあります。初心者が外国債券投資を始める場合は、まずは信用格付けの高い国債や政府系機関債など、リスクの低い債券からスタートするのが安全でしょう。
為替変動リスク
外国債券投資において避けて通れないのが、為替変動によるリスクです。円高進行時の元本割れリスクがあり、具体例として1ドル150円で購入した米ドル建て債券が、償還時に1ドル130円まで円高が進むと、為替だけで約13%の損失が発生します。一般的に、金利変動リスクよりも為替変動リスクのほうが変動率が高く、損失の可能性が高いということは十分に認識しておく必要があります。また、長期になるほど、為替相場の先行きは不透明になることも忘れてはなりません。
為替リスクに対処する方法の1つとして、外貨のまま保有し続ける選択肢があります。円高局面であえて円に戻さず、外貨のまま保有することで、不利な為替タイミングでの円転(円に換えること)を避けることができます。ただし、この方法は為替リスクを完全に「回避」するのではなく、「先送り」しているにすぎない点にも注意が必要です。
流動性リスク
新興国債券には、先進国債券にはあまり見られない特有の課題があります。市場の流動性が低いため、債券を購入後に売却したくても思った価格で売れない、あるいはそもそも買い手がつかないケースがあるという点です。市場規模が小さい通貨や発行体の場合、こうした流動性リスクが高まります。特に地政学的リスクが高まった際などは、流動性が急激に低下し、価格が大きく下落することも珍しくありません。
まとめ
外国債券の特徴をまとめると、高利回りの享受、分散投資効果、為替差益の可能性という3つのメリットがあります。一方で、カントリーリスク、信用リスク、為替変動リスク、流動性リスクという4つのデメリットに対する適切な理解と対策が必要です。外国債券はハイリスク・ハイリターンであることを念頭に置いたうえで、ご自身の資産ポートフォリオの一部として組み入れることを検討してみても良いのではないでしょうか。投資を検討する際には、まず信用力の高い先進国債券から始め、リスク管理を徹底しながら段階的に投資経験を積むことをおすすめします。正しい知識と慎重な判断により、外国債券はご自身にとっての資産形成の有効な手段の1つとなるでしょう。
※投資はお客様自身の判断と責任において行ってください。